その本を閉じた時、私はバスの中にいた。
自然と流れる涙に、私自身が癒されていた。
いつもだったら、
駅に着いたら止まっているタクシーに飛び乗り、すぐに家に帰るのだが、
その日だけは、あと少しで読み終わりそうな「その本」をどうしても読み終えたかった。
バス停に着き、時刻表を確認する。
「まだ時間ありそう…」
本を読める場所を探して、寒さをしのげる場所でバスを待つ。
その時間もなんだか今日は心地よかった。
もうすぐ大寒を迎えようとするこの時期。
手はかぢかみ、いつもより乾燥している指先は、
ページをめくるのにもひどく苦労した。
それがとてもじれったかった。
1年を通して、私たちは様々な本に出会う。
小説だけでなく、ビジネス本や自己啓発本、ハウツー本にエッセイ。
雑誌も含めると、それなりの数になるはずだ。
私の今、手元にある本。
日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)は、
一見、お茶のお話が書いているように思えるものだ。
実際「茶道」のお話が書いてあるのだが、でも違う。
表紙だって、お茶が載っている。
でも、それだけじゃないものが詰まっているのだ。
この本を薦めてくださったのは、ある一人の男性。
彼の書いた、WEBコラムの連載記事にその本は紹介されていた。
彼の言葉がとても好きで、彼のすすめるものであれば、と思い、素直に購入してみた。
本との出逢いというのもまた、人との出逢いと同じように偶然であり、必然だと、いつも感じる。
この本の中身をいくつか取り上げ、説明してみようとも思ったが、
その言葉をひとつ切り取って取り上げ、説明するのはとても難しく感じた。
とは言いつつ、せっかくなので、
私の心に穏やかな風を吹かせた言葉たちをいくつかここに書き記しておきたい。
ぜひ、声に出して読んでほしい。
そして、本を読む時にはこの言葉たちを見つけてほしい。
「過去のたくさんの自分が、今の自分の中で一緒に生きている気がした」
「掛け軸は、今の季節を表現する。けれど、季節は、春夏秋冬だけではなかった。人生にも、季節があるのだった」
「自分を含めて、そこに存在するすべてのものが、織り込まれた一枚の布のようにつながっていた」
本を読み終えた時、特に本を閉じた瞬間というのは、
映画が終わり、エンドロールが流れている時とよく似ている。
物語の終わりにある余韻にひたり、
ただその物語の点と点がじんわりつながっていく感覚を楽しむ時間。
この本を読み終えた時、まさにそのような感覚になった。
そして、私は目の前に広がる世界が、とても愛おしく思えた。
彼女は「お茶」という世界を通して、
自分を客観視し、自分を受け入れ、自分を愛おしく感じ、そして大切に育んでいた。
私は本の中にいる、彼女の成長を通して、自分の在り方を見直すきっかけをもらった。
何度も読み直したいと、本を閉じた瞬間に思った。
この本は、自己啓発本とは違うけれど、
自分を高めることにつながり、日本の豊かな四季の移ろいを感じながら、
豊かな表現をシャワーのように浴びることができる、
感性を刺激される本に間違いないのだ。
そして、これから歩んでいく人生の中で、
何度も読み直し、その度に、新しい発見があるはずだと、直感的に感じている。
そんなふうに思える本に出会えることは、本当に幸せなことだ。
「人生は、長い目で、今この時を生きることだよ」
あぁ、これも大好きな一節。
今あるとまどい、悩み、困難なことでさえも、自分の糧となること。
そして、私たちの周りには本当に豊かで愛に溢れた自然が満ち満ちているということ。
感性を研ぎすませば、いつもそばに在るということ。
彼女の25年という「お茶」の世界から、たくさん感じることができる。
2016年も残り3ヶ月。
見つめ直すきっかけをくれる本。本を開き、彼女の言葉に誘われてみてほしい。
きっとあなたの中にある、
「何か」が、必要な言葉を、そっと受け取ってくれるはずだ。
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